ブラックホール時間解説
もし人間がブラックホールの事象の地平面まで行くと本人の体感時間としてはほぼ無限に近い時間生きているのでしょうか?
もし人間がブラックホールの事象の地平面まで行くと本人の体感時間としてはほぼ無限に近い時間生きているのでしょうか?
いいえ。本人の体感時間では、ほぼ無限に近い時間を生きるわけではありません。
混乱しやすいポイントは、「遠くから見た時間」と「ブラックホールへ落ちている本人の時間」がまったく違うことです。
ブラックホールに落下する人を、十分遠くにいる観測者が見ると、その人は事象の地平面に近づくにつれてどんどん動きが遅くなります。さらに光が強く赤方偏移するので、理想化した一般相対論では
遠方の座標時刻では、事象の地平面を越えるまで無限の時間がかかる
ように記述できます。
しかし、落ちている本人の腕時計ではそうなりません。本人にとっては、
「普通に数秒、数分……と時間が流れて、そのまま事象の地平面を通過する」
ということになります。これを固有時間(proper time)といいます。
たとえばシュヴァルツシルト・ブラックホールへ自由落下する場合、地平面から内部へ入り、最終的に中心の特異点へ到達するまでの固有時間も有限です。
むしろ面白いのは、「本人から宇宙の未来が無限に高速再生されるのでは?」という疑問です。これも基本的には No です。
よくあるイメージとして、
「ブラックホールに落ちる → 時間が無限に遅れる → 自分からは宇宙の無限の未来が見える」
と思われがちですが、自由落下する人は宇宙の無限の未来を見ることはできません。地平面を越えるまでに本人が受け取れる外宇宙からの光・情報にも限界があります。
ただし別の状況として、ブラックホールの事象の地平面すれすれで静止することを考えると、話は少し変わります。
地平面のすぐ外側で静止している時計は、遠方の時計に比べて非常にゆっくり進みます。シュヴァルツシルトブラックホールなら、おおまかに
dτ=dt1−rrsとなります。
- dt:遠くの観測者の時間
- dτ:地平面近くにいる人の体感時間
- rs:シュヴァルツシルト半径
r を rs に限りなく近づけると、
1−rrsなので、遠方ではものすごい時間が経っているのに、本人には短時間しか経っていない、ということは理論上可能です。
ただし、地平面ちょうどで静止することはできません。 地平面に近づくほど静止するために必要な加速度が巨大になり、地平面では無限大になります。
なので整理すると、
| 状況 | 本人の体感 |
|---|---|
| ブラックホールへ自由落下 | 有限時間で地平面を通過する |
| 遠くから落下者を見る | 地平面付近でどんどん遅く見える |
| 地平面すれすれで静止 | 外宇宙より時間が非常に遅く進む |
| 地平面ちょうどで静止 | 不可能 |
| 自由落下して宇宙の無限の未来を見る | できない |
そして、ここにはかなり面白いポイントがあります。事象の地平面そのものは、落下している本人にとって特別な「壁」ではありません。 十分巨大なブラックホールなら、地平面を通過した瞬間に何か特別な感覚があるとは限らず、「今、越えた」と局所的な実験だけで気づけない場合があります。
むしろ「時間が止まる」という奇妙な振る舞いは、主に遠方の観測者が使っている座標の性質なんです。これは一般相対論でかなり重要な点です。
事象の地平面の中はどうなっているのですか? 時間と空間の役割が入れ替わると聞いたことがありますが本当ですか?
はい。ただし、「時間と空間が完全に入れ替わる」という言い方は、半分正しくて半分誤解を招きます。 より正確には、非回転・無電荷のシュヴァルツシルト・ブラックホールでは、事象の地平面の内側に入ると、半径方向 r が時間のような性質を持つようになります。
外側の時空は、ざっくり
ds2=ブラックホールに落ちるとどうなるのかはわかっているのですか? どこへ向かうのかという意味です
「どこへ向かうのか」という意味では、古典的な一般相対論の範囲ならかなり明確です。 ただし、その最終地点で本当に何が起きるかは分かっていません。
非回転ブラックホールなら、事象の地平面を越えた物体は必ず r=0、つまり古典理論でいう特異点へ向かいます。さっきの話の通り、内部では「中心へ進むこと」が未来へ進むことに近いので、どんなロケットを使っても止まったり引き返したりできません。
重要なのは、別の場所へワープすることが確認されているわけではないという点です。「ブラックホールの向こう側に別宇宙がある」「ホワイトホールにつながる」「ワームホールを通って別の場所へ出る」といったアイデアは数式上の解や仮説としてはありますが、実際のブラックホールがそうなっている証拠はありません。
そして問題は r=0 です。一般相対論ではそこで時空の曲率が無限大になり、理論がそこで破綻します。なので、
地平面を越える → 特異点方向へ進む
まではかなり確かな理論的予測ですが、
特異点に着いたあとどうなるのか
は現在の物理学では答えられません。
「物質が完全に消える」のか、「量子的な状態に変わる」のか、「特異点そのものが量子重力によってなくなる」のかも未解決です。
回転するブラックホール、つまりカー・ブラックホールだとさらに複雑です。古典的な数式ではリング状特異点や別領域へ続くような構造まで出てきます。ただし現実的には内部の不安定性が非常に強く、教科書的な「リングを抜けて別宇宙へ」という構図がそのまま実在するとは考えにくいです。
なので現状を一言で言えば、
「ブラックホールに落ちると、古典的には特異点へ向かう。そこで“どこへ行くのか”は、まだ物理学が答えを持っていない」
というのが最も正確です。
さらに踏み込むと、実は「特異点は場所なのか?」という問い自体が面白くて、一般相対論ではむしろ時空の行き止まりとして理解する方が近いです。
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